LARICHにおけるデザインとは

LARICHにおけるデザインとは - LARICH

国内外のデザイナーやクリエイター、ジュエリーに携わる方々との会話で、LARICHブランドディレクターの松本氏が繰り返し話していることがあります。

 

それは、ジュエリーのデザインを「形を考えること」だけでは捉えていないということ。

 

では、「デザインする」とは、何をすることなのでしょうか。今回は、その考え方について松本氏に話を伺いました。

 

──松本さんにとって、ジュエリーをデザインするとは、どういうことなのでしょうか。

 

松本 ジュエリーデザインというと、まずデザイン画があり、それを完成品として形にするイメージがあると思います。もちろん形は重要ですが、それだけではないと考えています。宝石の色や輝き、カットやプロポーション、地金の形や厚み、表面の質感、石留めや彫りといった技法など、一つのジュエリーにはさまざまな要素があります。それぞれを個別に考えるのではなく、一つの選択がほかの要素にどう影響するのかを見ながら全体を整えていく。そういうプロセスまで含めて、私にとってはデザインなんです。

 

──例えば宝石を一つ選ぶだけでも、デザインは変わるのでしょうか。

 

松本 変わりますね。同じ種類で、同じサイズ表記でも、宝石は色や明るさ、カット、プロポーションが一石ずつ違います。デザインに合う宝石を探すこともあれば、魅力的な宝石との出会いをきっかけに、もともとの形や細部を変えることもあります。「先にデザインがあって、それに合う宝石を探す」という一方向だけではありません。

 

──「この石だからデザインを変える」こともあるんですね。

 

松本 例えば、想定より発色が強い宝石なら、周囲の地金やメレとのバランスを変え、カットやプロポーションが違えば石座の形や高さを見直すこともあります。その石の特徴を見ながら、どこを生かし、どこを変えるべきかを考える。宝石とデザインの間を行ったり来たりしている感覚に近いですね。

 

──そうなると、完成形を最初から決めすぎないことも大切なのでしょうか。

 

松本 私はそう思っています。もちろん最初に方向性や「こういうものを作りたい」という考えはあります。ただ、それを絶対的な完成形としてしまうと、製作の中で見つかった、より良い可能性を捨ててしまうことがあります。

 

──製作を進めながら、デザインを見直していくこともあるということですね。

 

松本 そうですね。実際の宝石を見て、CADで立体にし、職人と話し、試作を確認していく中で、平面のデザイン画では見えてこない重要な要素が見つかることもあります。違和感があれば見直し、想定していなかった良さが見つかれば、そちらを生かす。最初に考えた形に固執することより、最終的に一つのジュエリーとしてどうあるべきかを考える方が大切です。

 

──お客様からのオーダーやOEMの場合は、考え方が変わるのでしょうか。

 

松本 はい。もちろん、こちらの判断だけで自由に変更するわけではありません。お任せいただく範囲によって、こちらからの提案の幅は変わります。ある程度自由に提案できる場合には柔軟に変えていきますが、明確なご希望があるお客様や、仕様書をもとに製作するOEMでは、ご要望や仕様にできる限り忠実に作ることを優先します。こちらが良かれと思って変更したことでも、必ずしも望まれている変更とは限りません。どこまで提案するのかも含めて、何を求められているのかを理解することが大切だと思っています。

 

 

──宝石だけではなく、技法によって形が変わることもありますか。

 

松本 あります。技法と造形の関係も、一方向ではありません。技法を美しく見せるために適した形があり、逆に、形によってその技法の特徴がより引き立つこともあります。KAZANEは、その関係が分かりやすい作品だと思います。

 

──和彫りを取り入れたリングですね。

 

松本 KAZANEでは、here to stayさんによる和彫りが大きな要素になっています。完成したリング枠に後から和彫りを加えればKAZANEになる、というわけではありません。彫りが美しく見えるように、リング枠の曲面やボリューム、彫りを入れる範囲、表面の仕上げまで考えています。以前のジャーナルでは、リング枠を和彫りが施される「キャンバス」と表現しました。どれだけ高い技術があっても、それを受け止める形が適切でなければ、その魅力を十分に生かすことは難しいと思います。

 

──形が技法を生かす一方で、技法があるから形も変わるということでしょうか。

 

松本 そうですね。和彫りがなければ、KAZANEのリング枠を今のような考え方で設計することもなかったと思います。技法を、最後に加える装飾としてではなく、最初からデザインの一要素として捉える。技法が形に影響する一方で、形も技法の見え方に影響する。その関係を考えながら一つの作品にしていきます。

 

 

──もう一つ、松本さんの話には「人」もよく登場します。

 

松本 それも、とても大切な要素ですね。ジュエリーは、多くの場合、一人では完成しません。デザイナーやCADモデラー、宝石を扱う人、石留めや彫りを担う職人など、それぞれ異なる専門性を持つ人たちが関わっています。自分のアイデアだけを一方的に形にしていくものづくりになってしまわないよう、専門家との対話も大切にしています。そこから、自分にはなかった視点やアイデアが出てくることがあります。

 

──その意見によって、松本さんが考えていたデザイン自体が変わることもありますか。

 

松本 もちろんあります。自分のアイデアは出発点ですが、それが必ずしも最良の形だとは思っていません。専門家の意見にも積極的に耳を傾け、その技術や感性によって作品が良い方向へ変わるのであれば、その変化は受け入れたいと思っています。

 

──AWAKENINGも、そうしたコラボレーションから生まれた作品ですね。

 

松本 AWAKENINGは、香港を拠点に活動するPICSのCatherine Siuさんとのコラボレーションから生まれました。着想のもとになったのは、香港の建築物に見られる三角形の窓や、そこから見える空の色の移り変わりです。その視点をジュエリーとしてどう表現するのかを一緒に考えていきました。自分一人で考えていたら、おそらく同じ作品にはなっていません。異なる経験や感性が交わることで、一人ではたどり着けなかった表現が生まれる。それがコラボレーションの面白さだと思っています。

 

 

──ここまでの「人」というのは、つくる側の人たちを指しているようにも聞こえます。身につける人も含まれるのでしょうか。

 

松本 もちろん含まれます。ジュエリーは誰かに身につけてもらって初めて、その人との新しい関係が始まるものだと思っています。職人が仕上げた時点で、ジュエリーとしての形は完成します。でも、そのジュエリーがどんな意味を持つのかまで、作り手だけで決めることはできません。日々身につける中で、特別な日に選ばれたり、大切な人から贈られたりしながら、その人自身の経験や記憶と結びついていきます。

 

──ジュエリーと身につける人との関係も、時間とともに変わっていくということでしょうか。

 

松本 そう思います。同じジュエリーでも、手にしたときと10年後、20年後では、意味が違っているかもしれません。家族から受け継いだものであれば、自分の記憶だけでなく、前の世代の時間も重なっていきます。

 

──その考え方は、LARICHの「Timeless Journey」というブランドコンセプトにもつながっているのでしょうか。

 

松本 「Timeless Journey」には、ジュエリーが身につける人の人生に寄り添い、時間とともにその人自身の物語の一部になってほしい、という思いがあります。そのためにも、長く身につけてもらえる美しさと品質を備えたジュエリーをつくることが、作り手として大切だと思っています。

 

──お話を聞いていると、松本さんは完成形を決めるだけではなく、いろいろな要素の関係を見ながら全体を整えているように感じます。

 

松本 完成形を決めること自体は私が担うことが多いですが、必要に応じて専門家の意見を取り入れながら、全体を一つの作品として整えていきます。それぞれの分野に専門家がいるからこそ、自分一人ですべてを完結させようとは思っていません。それぞれが持つ特性をどう生かすのか。一つを変えたときに、ほかがどう変化するのか。その関係を見ながら考える。そうしたことを日々積み重ねています。

 

──以前、「素材、造形、技法、そして人。それぞれを個別に考えるのではなく、その関係性まで含めてデザインを考えている」と話されていましたよね。今日あらためて伺って、その言葉の意味が少し分かったような気がします。

 

松本 そうですね。素材だけ、形だけ、技法だけを見ているわけではありません。宝石が変われば形が変わることがある。技法によって地金のあり方が変わることがある。誰かと一緒につくることで、最初に想定していなかった作品へ発展することもある。そして完成した後には、ジュエリーと身につける人との関係が始まります。それぞれが互いに影響しているからこそ、その関係をどう形づくるかまで考えるのが、私にとってのデザインなのだと思います。

 

 

──今日のお話を通して、LARICHのジュエリーは、形になるまでのさまざまな関係の中で生まれ、完成した後も、身につける人との時間の中で意味を深めていくものなのだと感じました。

 

松本 完成した後、そのジュエリーが身につける人にとってどのような存在になっていくのかまで想像しながら、ものづくりをしていきたいと思っています。

 

──最後に、LARICHのジュエリーを実際にご覧いただける機会について教えてください。

 

松本 LARICHのジュエリーは、大阪の弊社サロンでご覧いただけるほか、都内では「ROSWAY PRIVATE CARAVAN」をほぼ毎月開催しています。InstagramやXで随時ご案内しています。また、2026年は「TOKYO JEWELRY FES」や「NEXT by New Jewelry」などにも出展してきました。

 

──今後は、海外のジュエリーイベントにも出展されると伺いました。

 

松本 9月にはロンドンで開催されるCluster Contemporary Jewellery Fair「AMALGAM」、10月にはMilano Jewelry Weekへの出展を予定しています。機会がありましたら、今回お話しした考え方が実際のジュエリーの中でどのように形になっているのか、ぜひ手に取って感じていただければ嬉しいです。

 

──本日はありがとうございました。

 

ライター:南口太我

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