LARICHの目指す豊かさとは

LARICHの目指す豊かさとは - LARICH

初めてLARICHのコレクションと向き合った時、その細部の緻密さに目を奪われました。優れた製品に共通する、数値だけでは測れない均整美。このような「座りのいい」製品を生み出すブランドは、経験上、何かしらの精神的なバックボーンを持っていることが多いです。

2014年の夏、ヘルシンキ郊外にあるマリメッコ本社を訪問しました。ちょうどクリエイティブディレクター交代の発表があった直後のことです。「マリメッコは変わるのか」という質問に「それは分からない。変わる部分もあるかもしれない。けれども変わらないものもある」とマーケティング担当者が答えてくれました。会議室で交わしたこの何気ないやり取りを、今でも思い出すことができます。

 

 

帰国してからしばらくして、元マリメッコデザイナーの脇阪克二さんにお会いする機会に恵まれました。思い切りよく筆で色を乗せていく楽しげな仕事姿を拝見して、「変わらないもの」の答え合わせができた気持ちになりました。暮らしに喜びをもたらすタイムレスなデザインであること。それがマリメッコの根底にある想いでした。


「豊かさ」を表すフランス語『La Riche』をブランド名の由来に持つLARICH。繊細で美しいコレクションを生み出す背景には、行動の軸になるLARICHの想いがありそうです。今回もブランドディレクターの松本氏からお話を伺う企画です。立ち上げからの活動内容を追いながら、LARICHの哲学に迫ってみましょう。

 

──まずは、LARICH立ち上げの経緯を教えてください。


松本 少し大袈裟に聞こえるかもしれませんが、「身近な人たちに役立つ活動から始め、自分なりに何かジュエリー業界に貢献できないか」と考えるようになったことから、LARICHは生まれました。数年前に命に関わる病気で入院することになり、それが自分の生き方について思案するきっかけになったんです。病院の天井を眺めながら考えていた「復帰したら、自分のこれまでの知見などを少しでも周囲の人たちに役立ててもらいたい」という気持ちをプロジェクトの形にしたのがLARICHです。

 

──周りの人たちと共に成長していくイメージでしょうか。


松本 そうですね。ストーンディーラーからデザイナー、CADオペレーター、職人まで、宝石に関わるすべての人と切磋琢磨できる環境が実現できると嬉しいです。特にこれからジュエリー業界で頑張ろうとしている人たちには、自分の経験を役立ててもらえる場面があるんじゃないかなと。経験を共有する際には、口頭で説明するよりも、共に実践する方が近道だと思っています。それで実際にブランドを立ち上げて、モノづくりからセールスまでやってみようと、活動をスタートしました。

 

──実務だけではなく、経営者視点も学べそうですね。職人の高齢化による人材難から、若手の育成に追われる業界は多くあります。ジュエリー業界でも人材不足の問題は起こっていますか。


松本 はい。事業継続が難しくなって辞めてしまう才能あふれる職人やデザイナーは少なくありません。収入の問題などが原因で、好きという気持ちだけでは仕事を続けられないということが起こり得ます。もちろん私も他人事ではありません。持続可能なモノづくりを目指すためには、製作に関わる職人やデザイナーなど、製品を生み出す側が安定的に収入を得られ、心豊かな状態でジュエリーに向き合うための環境が重要だと感じます。

 

──サプライチェーンでいう製造側、つまり上流工程で働く方々に対して、具体的に実践されていることはありますか。

 

松本 ジュエリー製作の要である職人が長く活躍できるような仕組みを取り入れていますね。1981年に父が創業したジュエリー工房はハイジュエリーをメインとした製造を手掛けています。かつては5、6名ほどの職人が在籍していて、現在は有名な某ラグジュアリーブランドで仕事をする方もいらっしゃいます。今は会社に所属するという形ではなく、お互いの合意のもと契約をフリーランスに切り替えました。これにより以前と同じ作業量を担保しつつ、職人の皆様は自分のペースで他社からの仕事も受注できるようになりました。

 

 

──マリメッコでもデザイナーの大半がフリーランス契約だと聞いたことがあります。


松本 それぞれの得意分野を生かしながら仕事をしていただけるようになったことで、お互いに良い関係でお付き合いを継続できています。以前よりも国内外のブランドOEM製造案件も増えていますので、得意なデザインや仕上げに応じて、量産品の製造依頼もしています。フリーランスとして他社の仕事も請け負えるようになったことで、職人の皆様のデザインや技術の幅が広がっていくというメリットもありますね。もちろん、45年近くにもなる弊社ジュエリーサロン併設の工房も相変わらず高い稼働率で日々モノづくりに励んでいます。チーム内でナレッジを共有しながら、より良いモノづくりやサービスへ昇華させられる環境づくりが進んでいます。

 

──販売など、サプライチェーンの下流工程についてもお聞かせください。


松本 企業間取引を中心に活動しているROSWAYと違って、LARICHはジュエリーを身に着けるお客様向けに立ち上げたプロジェクトです。LARICHのことを知っていただき、信頼を獲得していく活動をゼロから始めなくてはなりません。試行錯誤の毎日です。あまり得意ではないのですが、地道にSNSで告知も頑張りたいと思います。お客様からダイレクトにフィードバックをいただけるのは嬉しいですし、刺激にもなっていますね。

 

──新たにチャレンジすることも多そうですね。今後はどのようなことに取り組まれる予定ですか。


松本 まずは各地の個展で皆様に対面でお会いする機会を増やしたいですね。LARICHを知っていただけるだけではなく、個展で生まれた新作デザインから製造メンバーがインスピレーションを受けるなど、上流工程に対する相乗効果も得られています。8月にはTOKYO JEWELRY FESにも出展します。昨年よりブースの規模を拡大し、メインロードに出展予定です。

 

──オンラインでの活動も地道に進められていますね。


松本 個展や展示会に来場することが難しい方もいらっしゃるので、活動開始から1年が経った段階でLARICHのオンラインストアを開設しました。こちらの記事を掲載しているサイトです。SNSの方はまだまだこれからですが、少しずつ時間を増やせるようリソース配分を見直していきたいと思います。おかげさまで、バックオフィスを含め多くのメンバーにサポートしていただいています。これからも切磋琢磨しながら取り組みたいですね。

 

──「宝石に関わるすべての人に心豊かな人生を」という想いのもとに、LARICHは成り立っているのですね。今後の活動も楽しみにしています。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。


各地の個展にて、LARICHジュエリーを直接ご覧いただけます。事前のご予約も可能です。

 

LARICH個展予約ページ
https://www.larich.info/

 

今後の展示会スケジュール
- 4/25-26 広島
- 5/16-17 仙台
- 5/30-6/1 東京
- 6/13-14 大阪
- 7/18-19 札幌
- 8/1-3 東京(TOKYO JEWELRY FES出展)



ライター:南口太我

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