リフォームという選択 - 前編 -
SNSを眺めていると、新作ジュエリーの投稿がよく流れてきます。その中には、リフォームをきっかけに誕生した作品も少なくありません。
LARICH個展でも多く寄せられるというリフォームの依頼。では実際に、どのようにジュエリーは生まれ変わっていくのでしょうか。
「知っているようで、意外と知らない」ジュエリーリフォームの世界。過去の実例を交えながら、その魅力と可能性について教えていただきました。
──まずは、フルオーダーとの違いを教えてください。
松本 リフォームとフルオーダーの違いについての回答は難しくて、両者を明確に比較することはできないんですよね。フルオーダーは一からジュエリーを作る「方法」を指し、リフォームは持っているジュエリーを新しく生まれ変わらせる「行為」のことを指します。つまり、リフォームの手法として「フルオーダーを選ぶ」のか、「既成枠を使用した加工を選ぶ」のか、2パターンの選択肢がある、という説明をするとイメージしてもらいやすいでしょうか。
──なるほど。イメージができました。
松本 文脈によっては、両者を比較して語ることがありますが、その場合の定義はとてもシンプルで、既存のジュエリーがあるのがリフォーム、何もない状態からスタートするのがフルオーダーです。リフォームでは元のジュエリーに使われているルースのサイズや形が制約条件となり、それに合わせてデザインを考えます。一方フルオーダーでは、ルースの選定からデザインまで自由に進められます。
──デザイン面で制約があっても、リフォームを選択される方は多いのでしょうか。
松本 そうですね。ご家族から受け継いだジュエリーが宝石箱の中で眠ったままになっていて、「昔もらったけれど、デザイン的に今は身につけにくい」「一部破損していて使えない」などの悩みを持つ方が多くいらっしゃいます。そのようなジュエリーに新たな命を吹き込み、身につけられる機会を与えられるのがリフォームの醍醐味です。

──リフォームには、大切な想いが込められていることが多いのですね。
松本 「先祖代々受け継がれている」「大切な人からもらった」といった宝石に込められた想いや思い出は、決してお金では買えません。私はそのような「宝石の価値」を守ることを大切にしています。新たに作られた宝石を手にしていただくだけではなく、リフォームや修理という選択肢もご提案することで、宝石の価値を守り続けることができればと考えております。
──「お金で買えない価値」、素敵な響きですね。一方で、現実的な費用も気になるのが本音です。ジュエリーの価格はどのように決まるのですか。
松本 ブランド価値や販売管理費などを除いてシンプルに説明すると、価格は「材料費+加工費」で計算します。材料費は地金やルース(裸石)の種類と量、加工費は工程数や手法などによって決まります。デザインや詳細設計費用は、加工費に含まれるのが一般的です。
リフォームの場合、使用しない宝石や地金を下取りし、その分を差し引いてお見積もりすることが多いです。例えば、既製枠を使ったシンプルなリフォームであれば5万〜8万円前後。一からデザインする場合は、10万〜30万円以上になることもあります。すべて事前にお見積りをご提示し、ご納得いただいてから進めております。
──抽象的なイメージだけを伝えて、デザインしていただくことはできますか。
松本 もちろんです。「柔らかくて優しい雰囲気」や「アンティーク風が好き」という感覚的なご要望でも問題ございません。LARICHの個展でリフォームをご相談いただく際には、ヒアリングの内容をもとにその場でデザインスケッチを数パターン描いてご提案します。場合によっては使用するカラーストーンやメレダイヤなどを実際に並べて、完成品の解像度を上げながら仕様を固めていきます。お客様が「どうしたらいいか分からない」と感じている状態からでも、一人ひとりの想いに真摯に向き合いながら、心から満足いただけるジュエリーをご提案するように努めています。
──松本さんの投稿で「色合わせ」という言葉をよく拝見します。使用する宝石の色味はどのように擦り合わせていますか。
松本 色味はジュエリーの印象を大きく左右する重要な要素です。実際に石を並べて比較したり、自然光・室内光の両方でご覧いただきながら、色味のチェックを一緒に行います。LARICHの個展には、持ち運べる限りのメレサイズの色石をご用意していますので、さまざまな組み合わせを試していただけます。普段お召しになる服のトーンや肌馴染みにも配慮しながらご提案することで、納得感を持っていただけて、私たちから客観的に見ても最適だと思える色合いを一緒に見つけていきます。

──まったく違うアイテムに作り変える方は多いのですか。
松本 はい、とても多いですね。リングをネックレスに作り変えたり、ペアのイヤリングをリングとネックレスとしてお作りしたり。形を変えることで新しい身につけ方が生まれます。最近では「譲り受けた思い出の指輪をネックレスにして、ずっと胸元で身につけたい」「リングとネックレスのセットジュエリーに使用されている宝石で、一点物のブローチを作りたい」などのご相談もいただきました。
──かなり自由にオーダーできるのですね。「後編」では、リフォームの実例を写真とともにご紹介いただきながら、お話をうかがいたいと思います。引き続き、よろしくお願いします。
ライター:南口太我